HiSOR BL-14 における STM を用いた構造評価と in situ XMCD 分光
X 線内殻吸収磁気円二色性 (XMCD) は、磁性体において左右の円偏光を用いた X 線内殻吸収分光スペクトル (XAS) に差が現れるという性質である。これは内殻吸収過程での内殻電子の遷移を決める電気双極子遷移の選択側における吸収確率が異なるために起こる。
XMCD には次のような特徴がある。内殻準位のエネルギーは元素によって異なるため、励起光のエネルギーを選ぶことによって特定の元素の XMCD スペクトルを得るこができる。これは薄膜、多層膜や合金などにおいて強力な点である。Thole、Carra らによって導かれた総和則 (Sum Rules) を用いることによって原子の軌道磁気モーメント、スピン磁気モーメントを分離して観測できる [1,2]。これは磁気光学カー効果 (MOKE) など試料全体の磁化を測定する実験手法では得られない利点である。
広島大学放射光科学研究センター(HiSOR) BL-14
広島大学放射光科学研究センター (HiSOR) の BL-14 で利用可能な光のエネルギーは、およそ 100 〜1200 eV である。そのため、3d 遷移金属の L 吸収端、希土類金属の M 吸収端をカバーしており、GMR 素子で用いられる Fe や Cr などの強磁性遷移金属 ( TM : Fe、Co、Ni...) の磁気モーメント測定に適している。測定方法は、1.3 T の永久磁石や ± 0.3 T の電磁石を用いて試料を帯磁させて残留磁化を与える。次に、シンクロトロン放射光から得られる円偏光軟 X 線を試料に照射し、全電子収量法により得られた吸収スペクトルを測定する。さらに、残留磁化を反転させて吸収スペクトルを測定し、反転前後の差分スペクトル(MCD スペクトル) を得ることで、上述した総和則を用いて試料のスピン磁気モーメントと軌道磁気モーメントを決定する。
現在、STM 装置を用いた試料評価と放射光を用いた XMCD 測定を同一真空状況下で行えるよう装置開発を行っている。
M. Sawada et al., Synchrotron Radiation Instrumentation: Ninth International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation, AIP Conf. Proc. No. 879 (AIP, New York, 2007), p. 551.
参考文献
[1] B. T. Thole et al., Phys. Rev. Lett. 68, 1943 (1992).
[2] Paolo Carra et al., Phys. Rev. Lett. 70, 694 (1993).
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