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反転対称性の破れた強磁性体の電子構造の研究

 結晶に対して垂直方向を z 軸とする。全ての結晶表面は z → -z の対称操作に対して反転対称性が破れた電子系となる。この結晶表面に特有な「空間反転対称性の破れ」によって、非磁性体であっても表面電子がスピン分裂することが報告されている。この場合、固体内部を走る電子にはスピン・軌道相互作用が働き、垂直方向に電位勾配が存在しているとみなすことができる。そのため電子は、その進行方向に対して垂直方向に有効磁場を感じ、電子スピンが歳差運動をしながら運動することになる。

 1990 年に Datta と Das によってスピン電界効果トランジスタ (スピン FET) が考案された [1]。彼らはソースとドレイン電極に強磁性体を使用することでスピン偏局電子を半導体中に注入し、磁界ではなくゲート電圧 (電場) により半導体中で運動する電子のスピンを歳差運動させ、その回転角を制御することにより、ソース・ドレイン間の電流を制御できるという原理を示した。

 そこで我々は、「空間反転対称性の破れ」によってスピン分裂するバンドがスピン FET などのスピントロニクスデバイスの輸送特性を支配していると考え、これらを直接的に観測し、理解することに取り組んでいる。実験は広島大学放射光科学研究センターに研究・開発を行ってきた高分解能スピン角度分解光電子分光装置を用いて、半金属単結晶や金属単結晶薄膜のスピンを分離した電子状態の解明に取り組んでいる。

 現在までに、Si (111) 表面上に Bi(001) 超薄膜を作成し、空間反転対称性に起因する Rashba 分裂について「スピンを分離」して直接観測することに成功している。

T. Hirahara et al., Phys. Rev. B 76, 153305 (2007)


参考文献
[1] S. Datta and B. Das, Appl. Phys. Lett. 56 (1990).

広島大学 理学部・理学研究科 物理科学専攻

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